2-6

4/11
前へ
/219ページ
次へ
「近づくなって、言ってんだろうが! 噛み殺されてぇか!」  リリスに覆いかぶさったシドは、彼女の肩を抑えつけて叫んだ。けれど、リリスは嫌だと言うように首を小さく振る。  弱弱しい仕草に苛立ち、シドは本当に首に噛みつこうとした。  だが、尖った牙が皮膚に届く前にリリスは言った。 「――いい加減にしてください」 「は?」  その声は毅然としすぎていて、リリスの出したものとは思えなかった。噛みつこうと口を開いていたシドは、動きを止める。 「勝手な行動は慎めと、何度言ったらお分かりになるのですか? 隊長にたてつき、単独行動をとるなんてもっての外です。貴方は野良犬ではなくて、鶏だったのですか? 三歩歩けば忘れてしまうほどのお馬鹿さんなのですか? それとも、年甲斐もなく反抗期続行中の思春期男児ですか? どちらにせよ、見ているこっちが恥ずかしくなるので、暫くの間、口を閉じていてもらえると嬉しいのですが」  まただ。どすの利いた、どこかの暴君隊長のような声だ。  まさか、リリスが出しているとは信じられず、シドはギギギとぎこちない動きで顔をあげた。  とたんに、満面の笑みが目に飛び込んでくる。  やはり、彼女が出したものではなかったのだ。聖女と呼ばれる少女が、あんなに冷ややかな声を出すはずがない。きっと、空耳だったのだ。 (そうだよな。この、じめじめと気の弱いなめくじ女があんなにスラスラと暴言を吐けるわけがないよな)  シドは目を閉じてうんうんと、頷いた。自分に言い聞かせ、閉じていた目を開く。  その瞬間のことだ。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加