1章-相棒は狂犬な番犬?

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 首に充てられたのは、アルバートのハンカチだった。アルバートはじっと青年を見下ろしていた。  リリスがハンカチを受け取ると、アルバートは青年に近づいた。 「躾のなってない犬だな」  青年の鼻がアルバートの固いブーツで蹴り上げられる。 「――そうそう、一つ言い忘れていたがな、貴様のバディは少々狂暴でな」  アルバートは顔をあげようとした青年の頭を踏みつけ、視線をリリスに向ける。立ちつくし、膝を震わせるリリスは目を見開いたまま何も言えない。 「いいか、よく聞け。そして、絶望しろ」  青年に視線を戻し、アルバートは淡々と告げた。 「貴様は今日から私の部下だ。不本意であろうが、知った事ではない。恨むのなら、二度も死線を彷徨った挙句、生き残ってしまった事を恨め。我々ハンターに人権などない。あるのは、薄暗い地下に縛り付けられた見えない鎖だけだ」 「俺に鎖なんて必要ない。お前らみたいな腑抜けた奴らにはお似合いかもしれないけどな」  頭を踏みつけられながらも、青年は鼻先で笑った。アルバートは足を振り上げ、青年の顔を蹴り上げる。 「隊長!」  リリスは青年に駆け寄ろうとした。だが、悪魔さえも黙る隊長に睨まれて足が竦む。  青年は仰向けに倒れ、咳き込んだ。 「……まだ、躾の時間が必要なようだな。今日は食事抜きだ。それから、傷の手当はしない。起き上がることも許さない。みじめに床に張り付き、ひもじく腹をすかせ、己の蛮行を悔やむがいい。以上だ。扉を閉めろ」  顔色を変えることもなく言い、アルバートは踵を返した。
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