1章-相棒は狂犬な番犬?

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「何をぼさっとしている。私を待たせる気か?」  目の前の光景に呆然としていると、背後から呼びかけられた。  冷たい独房に響いた声に、リリスは反射的に振り向き独房の外へ急いだ。  独房を後にする間際、一度だけ青年へ視線を向けた。重い扉の隙間からのぞいた双眸からは、強い殺意を感じる。  すぐに扉が閉まり、リリスはアルバートの背を追った。 (あの人が、わたしのバディ……)  首筋が鈍く傷んだ。傷口に当てていたハンカチを外すと、うっすら付着した血が見えた。加減をして噛んでくれたのか、大した出血ではないようだ。  痛みはあまりないが、獣の如き行動を思い出すと恐怖で涙がこみあげてくる。 「た、たたた、たいちょー……。わたしは本当にあの方とお仕事をしなくてはならないのでしょうか?」  リリスが半泣きで言うと、アルバートはぴたりと立ち止った。 「愚問だ」  すっぱり言い切り、アルバートはくるりと振り返る。 「一度しか言わん。一言たりとも聞き逃さず頭に叩き込こめ。――シド。それが奴の名だ。躾れば貴様の番犬くらいにはなるだろう。私は貴様と違って忙しい。これ以上、あの野良犬の躾に手を焼いている暇はない。あとは貴様の仕事だ。言い忘れていたが、バディを組んでいる間に何か問題が起これば連帯責任だ。お仕置き部屋へ行きたくなければ、しっかり躾けておくことだ」  以上、とアルバートは最後に付け加えた。 「そ、そんな……! わたしには無理です! 殺されてしまいます!」  リリスはとうとう涙をあふれさせた。えぐえぐと鼻を啜り、アルバートの隊服に縋り付こうとしたが、ひらりと避けられる。
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