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「なんて可憐な手だろうか。この、白くて繊細な指なんて私の母親にそっくりだ」
小さなリリスの右手を開き、ユニは指先に口づけた。リリスが茫然としている間に、一本ずつ順番に指へ唇を落としていく。
「ユ、ユニさん!」
耐え切れなくなり、リリスは声をあげた。こみ上げた羞恥で、頭が沸騰しそうだ。心をかき乱され、何も考えられない。
煮え立った頭で、これは仕事なのだと言い聞かせていると、ユニが微笑んだ。赤い目元が痛々しい。
「どうか、頼みを聞いてくれるかい?」
「なんでしょうか。わたしにできることなら、なんでも言ってください」
うるんだ瞳で見つめられ、思わず承諾してしまう。
「頭を、撫でてくれないか?」
一瞬、何を言われたのか分からず、思考が停止する。そのすきに、ユニはリリスの膝に頭を乗せた。所謂、ひざまくらというものだ。
「君は私の聖母なんだ。この灰色の街で、私がやっと見つけた光だ。孤独と悲しみに濡れた私の心を救えるのは君しかいない」
ユニは聖母に許しを請うように、リリスの腹部に抱き着いた。
異常な行動だというのに、リリスは心を動かされ始めていた。縋り付く男は、まるで幼子のように弱弱しい。今すぐ、手を差し伸べなければいけないという使命感すら感じる。
怖々と震えた指先で柔らかな栗色の髪に触れる。
触れた瞬間、ユニがピクリと動いた。リリスは髪をすくように頭を撫ぜた。何度も優しく撫ぜているうちに、恐怖心が薄れていく。大人しく頭を撫ぜられているユニに、愛しささえ感じだした。
今、縋り付いている男は母親を求めているだけなのだ。
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