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(お母様の事が、忘れられないのね……)
リリスの脳裏に、嘗ての幼い自分の姿が蘇える。修道院に預けられ、一人ぼっちになった時の自分だ。
惨めで哀れな幼女がユニと重なり、切なさがこみあげた。
「――良い子ね、リチャード」
口からこぼれたのは、膝に縋り付く青年の本当の名だ。《ユニ》という名は、彼には似合わないと感じた。
儚く繊細なこの青年には、リチャードという名の方が似合う。そう思った――のだが、
「リチャードは死んだ……」
「え?」
ユニがぼそりと呟いた。低く沈んだ声に驚き、リリスは頭をなでる手を止めた。
その時、ユニが急に起き上がった。血走った目と視線が交わった。ぎらついた双眸に、リリスは悲鳴をあげそうになる。
「リチャードは死んだんだ! 二度と、その名前を口にするな!」
激高の声が部屋に響き渡った。
ユニはリリスの肩を掴む。容赦のない力に、リリスは顔を歪めた。食い込んだ指は、肩を突き破ってしまいそうだ。
血走った目、吊り上った眉、噛みしめた歯。狂気をはらんだユニの表情に、リリスは声を失った。
「私はリチャードではない、ユニだ。――言ってみろ、私は誰だ? 答えるんだ!」
リリスの肩を掴んだ力が強くなる。叫んだ勢いのままに、ユニはリリスをソファに押し倒した。ソファに体を押し付けられたリリスは、恐怖に震えた。
尋常ではない力は、ハンターであるリリスでも振りはらえないほど強い。見下ろしてくるユニは、シドとは違う獣の匂いがした。
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