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「お前の本性は知ってんだぞ。俺の時みたいに、笑顔で拒絶すればいいんだよ。いい子ちゃんのふりなんてやめろよ。嫌なら嫌ってはっきり言えよ」
「――そんなこと、言えるわけないじゃないですか」
リリスは呟いだ。
シドにはうっかり本性を見せた。
昔から、押しこめた感情の許容範囲を超えると、リリスは本性を出してしまう。素顔を見られたことを今まで話題に出さなかったのは、シドに忘れて欲しかったからだ。そのことに触れなければ、大抵の人はすぐに元通りの関係に戻ってくれる。その方が、相手にとって都合がいいからだ。
誰だって、優しくて、どんな頼みでも聞いてくれるリリスの方が好きなのだ。そのことを、リリスは知っていた。
「いい子にしていないと、誰もわたしなんて見てくれないじゃないですか」
「は? なんだよ、それ」
鬱屈した表情のリリスに、シドは訳が分からないと眉をひそめる。
「昔、修道院長に言われたんです。わたしが良い子じゃないから、お母さまはいなくなったんだって」
「……そういえば、ハンターになる前は修道女だったんだよな。親に預けられたのか?」
「五歳の頃、母親に預けられました。父親のことはあまり覚えていません。ほとんど家にいなかったような気がします。母も、よく家を空けていました。だから、わたしは寂しくて、家にお母さまがいる時は片時もお母さまから離れませんでした。お母さまが外出するときは、大泣きして行かないでって、よく泣きついていました」
思い出すのは、十二年前の冬の事だ。
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