nobleness

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 もう一人の文芸部員の彼女は、口下手な私と違ってよく喋るし笑う。明るく朗らかな雰囲気がある。でも、それは教室の中の話で、部室での彼女は鋭い。私みたいに詩に癒しを求めはしない。いつもなにかと闘っているみたいに緊張している。小説や短歌を書き上げても満足せず、まだ工夫の余地がないか入念に探す。それを繰り返して、丁寧に仕上げていく。彼女は私なんかよりよっぽど真剣に文学と向き合っている。  彼女の瞳は曇りがなく、とても綺麗だ。だからこそ世界がちゃんと見えるのだろう。彼女がまっすぐに見つめた現実が小説に、短歌に反映されている。彼女は癖がなくて読みやすい小説を書く。しかし、彼女自身は無個性だとか稚拙だとか悩んでいる。彼女は現実を見つめることが得意だけれど、その視線は外側にばかり向いていて、おそらく彼女自身の美しさには鈍感だ。
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