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「依頼人は警察のひとだっけ」
さっそく、猫が書類を覗き込む。犬はすでに確認済みらしく、そのまま給湯室に向かった。ごそごそと作業をしながら、猫の質問に答える。
「そうだよ。いつものお得意さんさ。何でも最近、懸賞金の懸かった犯罪者が、今回の標的にやられることが増えてるらしくてね」
「へえ、今度の相手は賞金稼ぎの殺し屋サンなのか」
「その通り。まあ、殺し屋の宿命というか、皮肉なことにその標的さんの首にも懸賞金が懸けられたんだけどね」
犬の声に乗せ、給湯室から香ばしい香りが漂ってくる。ソファの上で、猫が香りを見ようとするかのように中空に視線を流す。
「で、どうしてまたその賞金稼ぎは、依頼人に目を付けられたのさ」
「警察内部にもあちこち派閥があるのは知ってるだろ? よそのお偉いさんから皮肉を頂戴したんだってさ。『警察より殺し屋の方が犯罪者の排除に貢献してるんじゃないか』って。それで、僕らに件の賞金稼ぎの殺し屋さんを片づけて欲しいらしい」
「警察仕事しろよ」
言い放つ猫である。
「あはは、正直な感想だね。でも、これは依頼人のパフォーマンスでもあるんだよ。こっちはこういう殺し屋を飼ってるんだぞって威嚇」
「それはそうだけどさ。釈然としないのはなんでだろ」
「持ちつ持たれつってやつだよ。警察のお手伝いをしてるから、僕らも色々と見逃してもらってるんだし」
鼻を鳴らした猫を宥めつつ、給湯室から出てきた犬は相棒にカップを手渡す。
「お、サンキュー」
途端、表情をころりと無邪気に和ませ、猫がカップを受け取った。中身は紅茶だ。香りを楽しんだ後で、猫はのんびりと口をつけた。
「あー、この香り、この味、この温度だよ。犬は私の好みをホント良く分かってる」
「そりゃどうも。長い付き合いだからね、猫舌に合わせるのにも慣れたよ」
犬は猫の正面のソファに座って自分のカップをテーブルに置いた。彼のカップの中はコーヒーだった。恐らく猫の紅茶より温度が高いのだろう、コーヒーからは目に見える湯気が昇っている。デスクの上で、紅茶とコーヒーの香りが混じり合う。
コーヒーを一口飲んで、犬は改めて切り出した。
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