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「で、書類には目を通したかい」 「一応なー。犬の話の方が分かりやすかったけど。にしたって、これが初めてじゃないとはいえ同業者と潰し合いさせるなんて趣味が悪いったら」  猫は大仰に腕を広げて嘆いてみせる。カップを持ったままだったが、器用に勢いを逃がしたらしく中身をこぼしはしなかった。 「確かにね。ただこの手の依頼は報酬が良いんだ。だから受けてきた」 「分かってるって。それにしても、この標的サン。この子もまだ子供なのに、なかなかやらかしてるねえ。腕利きと見た」  楽しげに一枚の書類を持ち上げ、猫はさながら本物の猫のように目を細める。その書類には写真も一緒に留められており、そこには眼鏡をかけた長い三つ編みの少女が写っていた。写真の下には無機質な印字で『蜻蛉(とんぼ)』と記してある。この殺し屋の少女の呼び名兼通り名だ。犬や猫よりいくつか年下だろうが、いかにも優等生然とした風貌には近寄り難い雰囲気が滲んでいる。写真越しでこれなのだ、実物はどれほどなのだろうと、猫はくすくすと小刻みに笑った。 「猫は他の殺し屋に無頓着だから知らないかもしれないけど、このごろけっこう有名なんだよ、その蜻蛉って子は。殺して回った賞金首の中には、腕の悪くない殺し屋もいるんだ。なかなか稼いでる」 「あ、やっぱ腕利き」 「うん、腕利き。それに、殺した後はちゃんとそっちの業者を雇って現場を片づけるんだってさ。出てきたばっかりのフリーの殺し屋にしては、目を瞠るお行儀の良さだよ。ちゃんとした場所で生きてれば、この子なら真っ当な人生を送れてただろうにね」  コーヒーをすすりながら、犬は肩をすくめた。それに同意を示してから、猫はちょっとした疑問を相棒に投げかける。 「ねえ犬、この子、なんで通り名が『蜻蛉』なのかな」
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