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 ほとんどの殺し屋が偽名を名乗り、それがそのまま通り名として定着するのはよくあることだ。通り名は本人が名乗る他に、風貌や殺しの手口から名付けられる例もある。そういった場合は、往々にして件の殺し屋の攻略に繋がる。それを期待しての猫の問いだったのだが、犬は軽く首を振った。 「僕も気になって聞いてみたんだけどね。その子、眼鏡かけてるだろ」 「ああ、そだね……ってもしかしてそんだけ?」 「そんだけ。なぜかは知らないけど、その子は仕事のたびに違う眼鏡をかけるんだってさ。もともと名前を名乗ってるわけじゃなかったみたいで、眼鏡から連想して、『蜻蛉』。どうだい、単純だろ」 「まったくだ。蜻蛉の眼鏡は銀色眼鏡……ってか?」  呆れた声で呟き、猫はやれやれと書類をテーブルに戻した。それきり興味をなくしたように、犬が淹れた紅茶を飲む。話し合いはこれで完了とばかり犬はてきぱきと書類をまとめ、もとの封筒に戻した。 「それじゃあ、そういうことだから。これから下調べに入るから、準備ができたら動いてくれ。まずは居場所を探してみる」 「はいはい、りょーかい。あーあ、自分より年下の子供なんて、殺したくないんだけど」  真意の知れない相棒の台詞には応えず、犬はデスクに向かった。デスクトップのパソコンと、積まれているが整頓された書類の谷間。シンプルかつ座り心地の良さそうな椅子に陣取る。 「どんくらいで分かる?」  聞いた猫に、静かに、だが鋭く笑った。 「『犬』の名前は伊達じゃないさ。すぐに探し出すよ」
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