一宿一飯の恩義・そうして新しい物語が動き出す

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「ちょっ ――」 「おっさんも一緒に入るー?」 「遠慮します」   苦手だ。あの手のタイプは ――    と、手嶌は思った。   実桜がシャワーを浴びている間に着替えを探す。   何か着せるもの……      袖と裾を捲れば何とか着られるそうな   スウェットスーツを用意した。 「着替えここに置いておくから」 「はーい」   待っている間に酔いを醒ましながら新聞に   目を通していると、「お先でしたぁ」と言って   実桜が出てきた。   その姿を見て手嶌赤くなる。 「し、下はどうしたんだ」 「えーこれ大きいし、ダボシャツだけで十分」   そう言って飲みさしビールを再び飲み始める。 「おっさんもさっさと入っておいでよ」   まったく……という表情で手嶌は着替えを持って   浴室へ向かった。   しばらくして出てくると実桜がいない。   (やはり帰ったのか?)   ホッとして電気を消し、   寝室へ向かいベッドの中に入った。 「―― なっ」   手嶌が電気をつけるとベッドの中に実桜と   ニャース。 「な ―― なんなんだ、キミは。何故ここにっ」 「泊めてくれるって言うたやん」 「なら下に布団を敷いてやろう」 「あたい、床で寝るのやーだ」 「じゃあ私が下で寝る」   そう言って立ち上がると袖をぎゅっと握ってきた。 「……どうした?」 「こ~んなにベッドは広いのに、どうして一緒じゃ  あかんの?」 「そ、それは……」   手嶌が実桜を見ると出逢ったばかりの頃の   勝気な表情ではなく、頼りなさそうな、   年令相応の少年に見えた。   フゥーと溜息をついて、ベッドへ戻る。 「えへへ、ホントおっさん優しいぃー」   そう笑って手嶌の腕に甘えてしがみ付く。 「ったく。早く寝ろ」 「うん。おやすみなさい、手嶌さん」   こうして手嶌にはやっといつもの静かな夜が   訪れるハズ、だったが ……
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