竜二との出逢い

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  時は21**年、晩秋 ――。      暮れなずむ夕陽の街 ――。      夕暮れは足早に その範囲を広げつつある。      通りを行き交う人は誰も早足で ――、      名も無きストリートミュージシャンの   弾き語りなんかに、立ち止まり耳を傾けるような   物好きはいない。      頼りないギターの音色と共に、最後の一節を   歌い終え実桜(みお)は、   自分の前に置いているギターケースの中の   小銭を集めてポケットに入れた。      この小銭は観衆からの投げ銭ではなく、   実桜が自ら置いてるモノ、いわば ”見せ金”。   それから実桜はケースの中へギターを収め、   人混みの中へ歩き出す。      (あぁ、お腹すいたなぁ……)      実桜が住み慣れた町を飛び出し、   もう*年が経つ。   行くあてなどなかったが、とりあえず貯めていた   僅かなお小遣いをバックパックに詰め、   唯一の宝物・ギターを片手に汽車へ飛び乗った。      手っ取り早くあの町を離れたかった。   いい思い出なんて、何ひとつない町。      呪わしい傷を負った町。           様々な人間で賑わう夜の繁華街でも、   華奢で小柄な童顔の小娘が自分の体より大きな   ギターケースを担いで通りを行く姿は、   結構目立つ。      実桜がこのイースト・エンドいちの繁華街と   言われる、エリア7に出没するようになってまだ   1週間足らずだが、既にエリア7で生きる人間達の   間で少女の存在は周知の事実として知れ渡りつつ   あった……。      厳しい冬は、もうすぐそこ ――、   でも、既に寒さと空腹でKO寸前の体は   ”SOS”を発し。   ろくすっぽ歩かないうちに足は止まってしまった。      う”ぅ……さすがにヤバい、かな。      仕方なく実桜は通りの端っこに寄って、   廃れ果てた花壇にちょこんと腰掛けた。        「―― なんだ なんだ いい若いもんが  しけたツラしやがって」       そう、ニヤけた表情で声をかけて来たのは、   ここいら一帯を取り仕切っている煌竜会系   4次団体のポン引き、田中。       「もーっ、何でもないよー、放っておいて」 「へへへ……」 「な、何だよー」
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