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父の特訓の成果もあり、その年の短距離走は1位だった。その快感が忘れられず、地域のスポーツ少年団で陸上競技を始めた。
中学に入学すると迷わず陸上部に入った。その頃にはクラスリレーのアンカーを任される程になっていた。中学3年生の最後の試合は両親が観に来てくれ、父の大きな歓声が恥ずかしかったが県大会ベスト4の成績を残した。
高校生になっても陸上漬けの毎日は変わらなかった。ただ環境は日々変わっていた。
部活で帰りが遅くなり、部活仲間と外食して帰ることが増えた。ちゃんと栄養のあるものを食べないと、という母の心配すらも欝陶しく思えた。部活が遅い日は父が時々車で迎えに来てくれたが、父の暑苦しい応援を適当に受け流すようになった。
3年になると進路についても真剣に考えなくてはいけない。大学進学に向けて少しずつ勉強もしなくてはいけなかった。部活が終わってからの勉強は辛かったが、クラスの気になる女子と同じ大学に行きたくて頑張れた。
そうして、最後の夏が来た。
県大会を勝ち進み、地区大会前日。
この大会で勝てばインターハイ出場が決まる。
部活は調整程度で終わり、あとは身体を休めるように、と解散になった。
大事な試合の前日だから、と父が迎えに来た。車内では何を話すでもなく、ただ窓の外を眺めていた。
また暑苦しい激励が飛んでくるかと思えば、父も黙って運転しているだけだった。エンジンの音だけが車内に響いていた。
家に着くと、ほれ、とオレンジジュースを渡された。
「俺もうこんな甘いの飲む歳じゃないんだけど」
「知らね、父ちゃんはずっとコーラ飲んでるぞ」
そう言って自室に帰って行った。
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