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雪原の中に少女は立っていた。
晴れた朝日が、木々と少女、降り積もった雪を照らす。
少女は凍てつく寒さなど気にする様子もなく一心にカメラのレンズを覗いている。
そこへひとり分の足音が奏でられた。
少女は気づく様子がない。
少年は声をかけた。
「雪乃。またここにいたのか」
幼馴染の声で振り返る。雪乃と呼ばれた少女のその肌はその名の通り雪のように白く、傍目から見ても冷え切っている事がわかった。
「こんな所にいて。冷えるだろう。さっさと家に帰って朝飯食うぞ」
「しーくん。お願いあともうちょっとだけ」
雪乃はまた正面を向くとカメラのレンズを覗いた。
「いつになったら撮れるんだよ、写真。お前が撮るって宣言してからもう3週間だぞ。ていうか、何を撮ろうとしてるんだよ」
「うーん、もうちょっと」
そう言って白い息を吐いた。
雪乃の格好は黒いダッフルコートに赤と黒のチェック模様の膝上スカート。それに黒いタイツを合わせている。
幼馴染、静弥は自分の黒いマフラーを外すと雪乃の白いマフラーの上から更に巻いた。
「え? 何?」
「別に」
静弥がそっぽを向いた時だった。
文字通り世界の空気が変わった気がした。
「あ、来る予感」
雪乃はカメラを身構えた。
「何がだよ」
すると2人の周りの空気がきらめいた。静弥はすぐに気づいた。
ダイヤモンドダストだ。
雪乃は沢山のシャッターを切った。
それは奇跡のような時間だったと雪乃は後に思った。
3日後には東京へ行ってしまう幼馴染。地元の事を忘れないでいて欲しくて、雪乃は自分で撮ったダイヤモンドダストの写真をプレゼントしようと思ったのだ。
写真を十分に取り終えてなおダイアモンドダストは続いていた。
「お前、これを撮ろうとずっと粘ってたのか?」
雪乃は恥ずかしそうに頷いた。
まったく、と静弥は言った。
しかしその表情は言葉とは裏腹で照れ笑いを浮かべていた。
「じゃ、帰るぞ。朝飯、なんだろうな」
静弥が歩き出した。
数歩、雪乃はついて行き、立ち止まった。
「……あのね、しーくん。ずっと言いたかった事があるんだ」
静弥は振り返った。
15歳の2人の付き合いは12年にも及ぶ。
雪乃の思いびと静弥はまっすぐこっちを見ている。
今なら言える。
雪乃は12年間温めてきた精一杯の思いを言葉に乗せようと思った。
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