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上級ポーション、万能薬から、伝説の霊薬エリクサーに至るまで、各国の協力のもと、王都から最前線まで届けられる補給品が兵士たちの消耗を減らし、一気呵成に勝利を収める一因となったのだ。
そこには王都の勇者の館の奥深くで、大量の薬を作り続けて供給していた、天才的な薬師の働きがあった。
公の場に出ることもなく、隣人と交わることもなく、一刻も惜しんで黙々と製薬を続けていた一人の薬師。
それがうら若い少女であったことを知る者は、わずか一握りの人間だけであった。
打ちひしがれて館に帰った私を、ヨハンがあわてて出迎える。
「ターニァお嬢様!大丈夫ですか!」
「・・・凄い人ごみで、王宮までたどり着けなかったの」
よれよれになって私は答えた。
「もっとも、この格好じゃ、中にいれてはもらえなかったわね」
騒ぎを聞きつけて、調合室から飛び出した私は、薬草の汁で汚れたエプロン姿のまま。
「わたくしが真偽を確かめてまいります。
お嬢様は、落ち着いて、ここに。
大丈夫。あの方に何かあったなんて、そんな馬鹿な事が起こるはずがありません」
たのもしい初老の執事は、少女を椅子に座らせ、若い女中にお茶を言いつけると、コートをつかんで飛び出していった。
帰還した王子に面会し、事情を聞き出さなければ。
ヨハンは人ごみの中、城へと向かう。
呆然自失のお嬢を一刻も早く安心させるために。
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