1  プロローグ

3/4
前へ
/89ページ
次へ
 上級ポーション、万能薬から、伝説の霊薬エリクサーに至るまで、各国の協力のもと、王都から最前線まで届けられる補給品が兵士たちの消耗を減らし、一気呵成に勝利を収める一因となったのだ。  そこには王都の勇者の館の奥深くで、大量の薬を作り続けて供給していた、天才的な薬師の働きがあった。  公の場に出ることもなく、隣人と交わることもなく、一刻も惜しんで黙々と製薬を続けていた一人の薬師。  それがうら若い少女であったことを知る者は、わずか一握りの人間だけであった。  打ちひしがれて館に帰った私を、ヨハンがあわてて出迎える。 「ターニァお嬢様!大丈夫ですか!」 「・・・凄い人ごみで、王宮までたどり着けなかったの」  よれよれになって私は答えた。 「もっとも、この格好じゃ、中にいれてはもらえなかったわね」  騒ぎを聞きつけて、調合室から飛び出した私は、薬草の汁で汚れたエプロン姿のまま。 「わたくしが真偽を確かめてまいります。  お嬢様は、落ち着いて、ここに。  大丈夫。あの方に何かあったなんて、そんな馬鹿な事が起こるはずがありません」  たのもしい初老の執事は、少女を椅子に座らせ、若い女中にお茶を言いつけると、コートをつかんで飛び出していった。  帰還した王子に面会し、事情を聞き出さなければ。  ヨハンは人ごみの中、城へと向かう。  呆然自失のお嬢を一刻も早く安心させるために。     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加