49人が本棚に入れています
本棚に追加
「この勇者の館に同居しておられたが、勇者殿はあなたに給与を支払われていたのですか?」
「私は使用人じゃありません、彼の家族同様の者です」
「『雇用契約なし』と」役人は記録する。
「でもあなたは、勇者殿と血の繋がった家族ではないですね」
「はい。親たちが仲が良く、兄妹同然に育ちました。
故郷が戦火に見舞われた時、彼と私、二人だけが生き残ったのです。
他に身寄りはなく、それからずっと二人だけで旅をしてきました」
「『単なる同郷の者』と」
「支払いは二人で割っておられたのですか?」
「いいえ。お財布はあの人が管理してくれていましたから、支払いや売買の契約などはすべて彼が」
「『個人財産は無し』ですか」
「あなたと将来についての事は口約束でもされていますか?」
「いいえ、すべては魔王を倒した後の事だと・・・」
「『将来の約束も無し』と」
聞き終わると、役人はこほん、と咳払いして続けた。
「勇者殿は旅先で聖女様と婚約されました。
一行の全員が祝福し、証人となりました」
え?
「ただの同居人であるあなたは、勇者殿の財産を継ぐことは出来ません。
彼の遺産はすべて、国家にもどされます。
この施設も薬草園も、国王陛下から賜った勇者殿の財産でありますから、あなたが利用する権利はないのです」
は?
最初のコメントを投稿しよう!