2 差し押さえ

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「数日の猶予を差し上げますので、この屋敷から立ち退いていただきましょう」 「それまでに今後の身の振り方を考えておいていただきたい」  はあ? 「邸のすべては勇者殿の財産、差し押さえさせていただきます。  調合室にかかっている立ち入り禁止の呪を解除してください」  勇者のために長年にわたって薬を作り続けてきた、私の調合室。  ここが差し押さえられる?  ああ、でももう、私の薬を必要としたあの人はいないのだわ。  もう・・・必要ない・・・何も・・・  すべてを相談してきたヨハンももういない。  私が解除の呪を唱えると、男たちは立ち上がり、どかどかと無遠慮に調合室へ踏み込んだ。  しかし中からぎゃっという叫び声。 「ああ、気を付けてください。うちのバンバラは気が荒いから・・・」  遅かった。  いまいましげな悪口と共に、マントを食いちぎられた役人が飛び出してきた。  バンバラ(番薔薇)は王都でもあちこちで見かける、ありふれた魔草だ。  観賞用にもなるが、花心に牙の生えた口を持って、近づくとうなったり噛みついたりするので、よく果樹のとなりに植えて盗人よけにされている。害虫を食べてくれるし、餌いらずで育つ丈夫な魔草なので、人を雇う余裕のない貧乏人には人気が高い。     
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