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齢を重ねたものほど知能が増して家人に懐き、花が色濃くなっていくが、うちのバンバラ、ダークは田舎の祖母の家を守っていた百年物を取り木したもので、鉢植えながら深紅色の大輪で香りも高い自慢の子だった。
花の見事さに惑わされて、観賞用だと思って迂闊に近づくと、思わぬ怪我をすることになる。
私は調合室に入って、牙を剥いてガウガウうなっているダークをなだめ、鉢ごと持ち上げた。
根はついているが、主な養分は空中の魔素なので、土は少なくて済み、鉢は軽い。
故郷から持って出たのは、これだけだった。
彼と共に過ごした長い放浪の時も、ずっと傍らにあった、このひと鉢。
馴染んだ家具に差し押さえの魔札が貼られていくのを見ていられず、私はダークの鉢を膝に、玄関の石段に腰かけ、彼らの仕事が終わるのを待っていた。
数日の間はここで寝泊まりしてもいいと言われたけれど。
なんかもう、どうでもいいわ・・・
ここで待っていたって、帰ってくる人はもういない・・・
うつむいてぼんやりしていると、目の前に、ほこりだらけのブーツが止まった。
折り返しと房飾りと、見事な銀の拍車のついた、爪先のとがった膝まである赤い皮のブーツ。
「失礼、お嬢さん、こちらはターニァ・ニュームーン嬢の御屋敷でありまするか?」
目を上げて、私は眼をぱちくりさせた。
眼の前に立っているのは、小柄な私よりも頭一つ分くらい小さな人物。
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