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眠る瞬間の映像を「白虹」と名付けることにした。
麻子は不眠症である。寝ようと努力すればするほど眠れない。「この一枚で眠りに」という自律神経系に効果があるだろうCDを3枚持っているが、曲想を覚えてしまい、かえって眠れない。もちろん、眠りにつく努力はしている。日中の適度な運動、午後3時以降はカフェインの類は摂っていないのだ。
人工照明の青い光がよくないという、それも知っているので、夕方すぎると浴びないようにしている。うす暗いなかで生活をしている。
それでも眠れないのである。眠れないことは、不器用な自分には眠ることすらできないのだ、という自己否定感にさらに追い込まれる。
世の中の人は、眠りをいともたやすく手に入れているのに、どうして自分は眠れないのであろう。麻子はため息をついてベッドの上で寝がえりをうった。
それでも真夜中を過ぎ、日付が変わりエンドレスの考え事もなげやりになったころ、
ふと、脈絡もない映像が脳裏に浮かぶのだ。
辻褄のあわない、そういうことではない。脳の記憶のピースをでたらめに組み合わせたような画、とでもいえるだろうか、サイケデリックとも違うのだ。
滑稽とも、奇怪ともいえるその映像は妄想というには瞬間的であった。
それが訪れたあとは、眠りにつける。
それは麻子にとっては待ちに待った名実ともに夢先案内人なのである。
だが、白虹ははかない。すぐに消えてしまう。正体を知ろうと手を伸ばしたとたん消えて、また現実世界へ逆戻りである。
白虹が現れたとしても考えずにじっとしている。それは麻子にとってはやはり難しいことであった。なぜならそれは核爆発を連想させるから。何千発もの白い火柱を。
今晩も一時間ほどまえに、ちょこっとままぶたの裏にでた白虹、それは今は片鱗もない
ああ、と麻子は寝返りをうつ。
あの核戦争の後、わたしは、でくのぼうになった。眠ることすらできないのだ。
眠りたい。眠れない。
明日は仕事が入っているのに、と。
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