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麻子の仕事は、病院入口で老女と待ち合わせ、受診手続きをするとこらから始まる。
82歳になる、腹回りが1メートルは超えると思われるベッラという女性は、だいたいの人間が老化によって環境の変化になじめないように、当然のことながら、人生の終末期に劇的な変換を否応なくつきつけられ、多いにとまどっていた。
つまり現在の受診システムが理解できないのだ。
「だって、ミズ麻子、昔はこんな方法ではなかったはずですよ」
「ええ、そうですね」
「そうですとも、あの戦争のあと、病院はすっかり変わってしまったわ。病院だけでなくなにもかもが。わたしの人生も狂ってしまったわ」
「……そうですね、みんなあの戦争のせいです」
毎回の同じセリフである。虚しいやりとりとおざなりな慰め。しかし麻子の仕事は、彼女のように昔を懐古し、いっこうに今のやり方を学ばない老人のために成り立っていたともいえる。
カウンセラーと名付けられた仕事だが、戦争前の時代とは異なる意味の仕事だとも麻子は考えていた。
いやもしかすると、ひょっとすると似ているのかもしれないが。
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