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とにかく、こうして二人きりになったことなんか一度もなくて、何を喋ればいいかわからない。思考がショートして、頭から煙が出そうなほどパニくっていると。
「ごめんごめん。君を困らせるつもりなんかないんだ。俺はただ……」
困った顔をして、先輩は雪を踏みしめながら近寄ってくる。そうして私を覗き込み、手を伸ばした。身動きすることもできず呆然としたまま立ちすくんでいると、両方のこめかみに冷たい指が触れて――。
「やっぱり……。眼鏡ないほうが可愛い」
先輩は私の眼鏡を取り上げて、宝物でも見つけたように得意げな顔をした。
「か、返してください……っ!」
大きな丸眼鏡をかけているのは、ちょっとでも顔を隠したいから。
前髪を弄るフリで顔を隠しながら、私は泣きそうな気持ちで手を伸ばす。全然届かないその手を先輩に掴まれて引き寄せられた。
「……っ!」
額に温かいものが触れて、それが先輩の唇だとわかり、これ以上ないというほど顔が熱くなる。うそ、うそ! キスされた! どうして先輩が私なんかに……。
「好きだよ。君が入部したときからずっと伝えたくて、やっと言え……え? え? 俺にコクられるの、泣くほど嫌だった?」
私の手をぱっと放した先輩は、困ったように眉を下げ、降参するみたいに両手を挙げた。
違う。そうじゃない。私は頭を勢いよくぶんぶん振った。
「う、嬉しいです……だって、私も……」
嬉しくて嬉しくて、言葉が詰まってそれ以上何も言えなくなった。憧れの先輩に好きって告げられて、なんだか夢を見ているみたい。
さっきよりも吹雪いてきて寒いはずなのに、体の中がこんなにもぽかぽかとあったかかった。
「俺のほうが嬉しいよ。絶対断られると思ってたけど……思い切って告白してよかった。大好きだよ……ああ、くそう……っ」
自分で言ったくせに、照れて顔を背けた先輩に、今度は私がレンズを向けた。
「先輩の顔、もらいます」
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