第1章

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 これから何をされるのか全く分からない状態なのに、恍惚に染まった大竹の胸は、何かしらの期待に満ちていた。  少年は。  大竹の顎を軽く持ち上げて。  唐突に。 「ぇ……?」  唇を奪った。 「ぅん……!」  驚きは一瞬。 「――ん、ぇあ……ぅ」  二人は、お互いの唇を互いの唾液で濡らしあい、くちゅっ――と妖しく舌を絡ませた。  大竹に抵抗はなかった。この異常な状況にもかかわらず、逆に求めてさえいた。  ともすれば、このまま体を預けてもいいとさえ思えるほどに、大竹は蕩けていた。 「ふぁ、ん……ァ、――ッ!」  途中、大竹はビクッと肩を揺らし、眉を寄せた。  気づけば、少年と自分の唇から血が流れている。  少年が自分の唇と一緒に噛み切ったのだと気付くが、その程度のことで留まることはなく、二人は互いの唇の傷をなめ合い、深く、ただ深く求めあうように唇を重ね――、  最後は名残惜しそうに少年の唇を自分の唇で挟む大竹だったが、けれど少年が頭を下げたことによって、ゆっくりと離れていった。互いの唇の間には唾液が橋を架け、しかしふき取ることはせずに見詰め合う。  惚けた様な、あるいは意地悪をされた子供がすねた様な視線で大竹は少年を見つめ、その視線を受ける少年はしかし、それでも微笑むことはなく、血の滲む大竹の唇に親指を這わせた。 「痛かったか?」  まるで突き放すような眼つきで言われる気遣いの言葉。飲み込まれて、しかし恐怖を感じられない瞳の光に酔っている自分に気づけない大竹は、胸を押さえて頭を振ることしかできない。 「そうか」  親指についた大竹の唾液と血液を少年は舐めとり、飲み込む。  そして、ゆっくりと立ち上がると、大竹に向かって光を纏う左手を差し出した。 「掴め」 「……ん」  やはり戸惑いなく、大竹はその手をつかむ。  少年は言った。 「イメージしろ。確固たる己を現実に繋ぎとめる為の鎖を」  言葉とともに、少年の左手を覆っていた光が大竹にも広がっていく。 「それは世界の独立を支え、次元の海を渡るための指針になる」  手から腕、腕から肩へと光は大竹を飲み込んで、 「侵食しあう隣の船は本来なら不可侵だが、時にそれは徒に(いたずら)、想いに引き寄せられる」  胸から腹へ、そして下半身へと進むと、 「だからこそ、それは人の強い想いで修正し修繕できなければならない」
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