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〇話 ○○な少女は、××な少年の、△△が好き……!
ピルピルピピピピピー……ピルピルピピピピピー……、と。
どこかの地球防衛軍が巨大怪獣出現時に鳴らすアラームのような音が、夜のしじまと言うにはテレビの音がやかましい、リビングに響いた。
「おーい、災害警報鳴ったぞー」
『優しい少年』はローテーブルの上で鳴る自分の物でない端末を持ち上げて、大声で叫ぶ。
けれど、しばらく待っても返事はなかった。
聞こえてないのか? と思った『優しい少年』は端末を持って立ち上がる。『優しい少年』は優しいが故に、届けてあげようと思ったのだ。
リビングを出て左に折れ、一番奥にある扉を無遠慮に開ける。
扉の奥にはもう一枚の扉があり、それは半透明のアクリル樹脂やプラスチック、あるいはそれらを止める金具で出来た扉で、気密性パッキンで縁取られた物だった。中からは、当人の機嫌が良いことを示す鼻歌と、家の中にも拘らず雨が降る様な水音も聞こえてくる。『優しい少年』は、半透明のアクリル板に透ける人影を確認して扉を開けた。
そして、中にいる人物に直接声をかけてあげた。
「上機嫌の時に悪ぃンだが、災害警報鳴ってんぞ?」
だが、直接声をかけているのにもかかわらず、相手からの返答はない。
「おい、聞いてんのか? 胸も尻も丸出しで固まりやがって」
それも当然だろう。入浴中なのだから。
『優しい少年』は溜息をつく。
「せっかく持ってきてあげたのに無視ですかーこのやろー」
途端に、『優しい少年』が声をかけた相手――『見た目だけ少女』は、オーロラピンクの長髪に泡を乗っけたまま、顔どころか全身を真っ赤に染めて喚きだした。
「なな、なんてことをするかなっ! 変態アホ覗き魔っ! 正々堂々にも程ってものがあるんだよう!」
しかし、慌てふためく『見た目だけ少女』に対して、その全身を見回す『優しい少年』は、何の感慨も沸いていなかった。
「いや、いつも見てるしなあ」
「なんですとっ!」
『見た目だけ少女』は内容に思うところがあったのか、口元をあわあわと揺らし、喚く度合いをさらに大きくして、
「いつも見てたって急にお風呂のドアを開ける人なんていないんだよ! ていうかそれはいつも見てるから見飽きたって言いたいのかなあっ! そーなのかなあっ!」
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