第0章

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 ムキャー、と。『見た目だけ少女』は通販で買った洗顔用の石鹸や、お風呂で使えるパックや、先日買ってきたばかりで重たいボディーソープのボトルや、しまいには湯の入ったままの洗面器を次々に投げ出した。  それらを一つ一つ受け取っていた『優しい少年』は、しかいし最後のお湯入り洗面器に顔を引きつらせた。 「ばっ! 洗面器まで投げんじゃ――――ぶばッッッ!」  直撃した洗面器は奇跡の様なバランスで『優しい少年』の頭にかぶさる。 「……あ」、と呟きを漏らすのは『見た目だけ少女』の方。  頭に洗面器をのせたままの『優しい少年』は無言だった。体感では、水なのか、お湯なのか分からない液体が『優しい少年』の着る学ランないし体を流れ落ちる。びしょ濡れと言う程ではないが、少し水が跳ねた程度の量でもないそれは、とても気持ちが悪かった。 「……」  それを見た『見た目だけ少女』は唇をすぼめて思う。  やり過ぎた、と。  しかし、常識で言ってこの場合の悪者は、『見た目だけ少女』が入浴中の風呂場の扉を勝手に開けた、『優しい少年』の方だ。普通、それが家族の間柄であっても、異性が使用中の風呂場の扉をノックもせず開け放つのはマナー違反だし、二人の関係性が「他人」に分類されるのであれば、犯罪でしかない。湯をかけられたからと言って『優しい少年』の自業自得のはずだ。  けれど、こう考えるとどうだろう? 『優しい少年』は、『見た目だけ少女』の端末が災害警報を発したから、大きな声で伝えようとした。けれど、しばらく待っても返事がなかったから、『優しい少年』は確実に用件を伝える為に、直接顔の見える距離までリビングから移動した。それは『優しい少年』の心遣いで、親切心だ。なのに! 『見た目だけ少女』は用件を伝えに来てくれただけの『優しい少年』を捕まえて『変態』や『アホ』などと口汚く罵ったあげく物を投げつけ、あまつさえ湯を浴びせかけるという暴挙に出た。『優しい少年』は災害警報という一大事を知らせようとしただけなのに。ただの親切心を、心遣いを、無下に扱われ、足蹴にされて、そのうえ土足で踏みつけられた『優しい少年』は、本当に、誰もが思うような悪者だろうか、と。  ほら、なんとなく『優しい少年』より見た『目だけ少女』の方が悪者の様な気がするはずだ。誰が何と言おうと『優しい少年』が悪いのは変わらないはずなのに。
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