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1 「090」と「080」
小春日和のベランダで、洗濯物を取り込み終えた真友子は
頭上に両手を思いっきり伸ばした。
乾いて澄んだ空気の中を、ツンと冷たさが尖り始めた風が
やんわりと抜けていく。
そろそろ秋も終わりかな。
ポンと投げ出すように両腕の力を抜き、胸の内でなんとなく呟いてみる。
あぁ、また明日から忙しいなぁ。
しかし、声にしないからではなく、この1LDKの部屋で
彼女の呟きを聞いてくれるものはない。
だがそんな事には、もうとうの昔に慣れっこになってしまった。
そして、こんな風に一人だけで過ごす日曜の午後も、いつもの事。
ところがこの日は、思いがけずちょっぴり違う「日曜の午後」になった。
仕上げ乾燥をする低い乾燥機の音を耳にしつつ、真友子は、リビングに戻り
テレビに映る夕方のニュースにちょっと耳を傾ける。
そして、それを眺めること15分ほど。
小ぢんまりとしたリビングで、仕上がったばかりのフカフカに乾いた
洗濯物を畳み始めたその時。
ローテーブルの上に置いたスマートフォンが、小さく震えだした。
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