終末セール

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 私は鏡の前に立ちます。下着姿の女の子が映ります。薄い体です、肌を裂けば、白い骨が顔を出しそうです。どうやら、もうすぐそうなりそうです。  鏡に触れます、おなかに違和感があります。鏡に映る女の子に、私は話しかけます。  「いらっしゃいませ」 私が言いました。妙です。「私たち」は客でも店員でもないのに、妙です。  女の子が笑いました。頭をゆらして笑います。こちらにまで振動が来ます。ぱさぱさ髪が揺れます。  元気にしていますか。女の子は尋ねます。優しい言葉です。 「おかげさまで、元気です」 私は答えます。ささいなやりとりです。心がそっと温かなものに包まれる気がします。  今日はどういったご用件で。 「――そちら側に行かせてください」  そちらがわに行きたいのです。私をそっちのお店に連れて行ってください。女の子は笑ったままです。でも、目から涙がぽろぽろこぼれています。  笑っているのではなくて、歯をくいしばっているのです。女の子も私も。  笑っていないのです、笑っていないのです、でも本当は笑っているのかも――いいえ!  笑っているのです。笑うのです。店員はお客さんのために笑うのです。おきゃくさまはかみさまだから、だから私はお店の人に笑うのです。  私は店員です、この世界の店員です。だから私は笑っています、ずっとずっとわらっています。     
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