『最期』の日

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 とある町の、背後に位置する丘の上。小さな山と言っても差支えないほどに大きいその丘に、一面雪が降り積っていた。地に足を踏みつけるごとに、心地いい音が聞こえてくる。  そんな場所に、彼女はいた。冬眠し枯れている木の近くに、ひっそりと佇んでいる。紺色のコートとマフラー、そしてカメラを手に取って。 「何を、しているんだ」  当然の疑問を口にした。すると、 「撮影、している。撮ってるんだ。この様子(・・)を」  眼下には街が見える。あと数歩前へ出れば崖で、下に墜落する立ち位置だった。 「面白いだろう。人がこんなにも混乱して、右往左往する。現にまだ何も起きていないのに、想像力の利いたものだな。これから何が起きるのか想定して、そのうえでパニックに陥っているんだ」  彼女が示すは、その中心部に位置する駅前広場。いつもなら穏やかであるはずのそこには、混沌が見える。何千という人が暴徒と化していた。クラクションを鳴らした車は燃やされ、転がされた。電車に乗れず脱出できていない群衆が暴れているのだ。 「……その様子を、撮っている。これがまた一興でな、どことなく快感があるんだ。皆気がくるってるのに、自分一人だけ落ち着いて撮影しているなんて。とんだ贅沢だろう」  笑いながら、そう言葉が宙を舞う。 「狂ってる、か。お前も変わらないと思うがな」 「そうか?」  今度はさらにわざとらしく声を上げて、綻びを見せる。 「まあ、確かにな。こんな状況で冷静を保ってる方が可笑しいってものだ。動物的なのか、より人間的なのか。その違いか」  言い終える。すると、彼女はまたカメラで風景を撮り始めた。飽きないのか。 「君のほうは、なんでここにいるんだ?」
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