『最期』の日

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 ファインダー部分を覗いたまま彼女はそう言った。 「……様子見、というか。なんとなくだ。一人になりたかった」 「だったら、私は邪魔な人間だな。小うるさいし、『狂ってる』しで。出て行ったほうがましか」 「出ていく、ってどこに行くんだ。場所はないだろう」 「別に物理的な場所はなかろうと、精神的なものならどこだってある。私がこの崖から、飛び降りてしまえばいい。あと数歩前へでて、それで終了だ。下手なことを考える必要もない」  それは、死ぬということか。発言する。 「当たり前だ。あと十分もせずタイムリミットは来るだろう。NASAの野郎が白々しくも『期限』としたのが今日の13時02分。時計はもうそろそろ12時の55分だぞ?」 「私は、そして君も、シェルター行きの切符を渡されなかった『劣等分子』だ。このまま地上で宇宙から降り注ぐ岩を見届けて、火の海を体験してから死ぬか。若しくはその前に命を絶つか。それしか残されていないんだ」 「……もしかしたら、奇跡が起こるかもしれないだろ。国際部隊が今特攻してる。命を捨てて。核ミサイルで隕石がバラバラになれば、被害は拡散するが微小に――」 「なるわけがない。リークされたことも知らないのか? NASAの機密文書が科学者によって。確率は0.0049%、2万分の1だ。起こりえない」 「まあ、別に私は、自分で死ぬんだったならいつでもいいんだ。とにかく、広場で暴れてる連中みたいに他人で殺されたり、隕石の波に飲まれて死ぬことだけは御免だがな」  もはや、何も言えることはなかった。それが彼女の思想か、という感想以外には何一つ。  数枚ほど写真を撮ったあと、彼女はカメラを下げて、自分のほうに顔を向けた。
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