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「そろそろ57分か。あと五分で、ゲームオーバーだな」
澄み切った笑顔で、そう放った。まるで、死ねることを喜んでいるかのように。
「最後の最後まで撮り続ける、ってのは少々不格好だから、あと一枚とったらおさらばするか。この世界から」
そういうと、突然彼女は切り出してきた。「一緒に、写真を撮らないか」
「……どういう意味だ」
「そのままの意味だ。一緒に写真を、最期の日の最期の丘で、崩壊した町を背景にとるんだ。雪の中な。君と一緒に。それができたら、死んでもいい」
万に一つが生じたかのような顔つきだな、と驚いている自分をその人はからかう。
「別に、心中してくれということじゃないのなら大丈夫だ。撮ってもいい」
「そうか?」彼女は嬉しそうに言った。
そして自分と彼女は、崖を背にして並んで立った。カメラを自撮り用に切り替え、画面が描画される。二人の姿、そして町を背景に、雪景色の様子が。
3、2、1。
「これで、十分だな」
続けて、
「じゃあお別れだ。もういつ来てもおかしくない。私は先に、逝かせてもらう」
カメラを地面に置いて、そう発言する。
「また、な」
彼女は、そう言い遺した。そして――雪の被る崖から、飛び降りる。
こうして一人、残されたのだ。
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