空を見上げたら面白い出会いがありました

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それから、たった一ヶ月の間で佐野くんとはたくさん話す機会があった。というよりも、話さなければいけなかった、の方が正しいのかもしれない。 ベランダからは、しょっちゅう佐野くんの洗濯物や私物がふってくる。 ひどい時には、蛇口の閉め忘れで上の階から水漏れしてきたこともあった。   うっかりでは済まされないほどにうっかりしている佐野くんだけど、弁護士を目指していて、しかも入試ではトップの成績だって言うんだから驚きだ。 うちの大学の法学部ってけっこう偏差値高いはずなのに......。 大変失礼ながら、たとえ頭は良くてもこんなにうっかりしている弁護士さんには怖くて弁護を頼めないな、なんてひそかに思ってしまう。 でも、散々迷惑をかけられているにも関わらず、不思議と憎みきれないのが佐野くんのすごいところ。 友だちもたくさんいて、いつも明るくて、何より毎日楽しそうに過ごしていていいなと思う。 ……すこし、うらやましくて、彼がまぶしい。 何でもそこそこに無難にこなして生きるよりも、欠点があっても、どんなことでも楽しめる彼のような人になりたい。 だって、その方がずっと毎日楽しく過ごせるだろうから。    最初は羨ましいのと同じくらいに、何であんなにうっかりしているのに誰からも好かれるんだろう、と嫉妬も少しはあったかもしれない。 だけど佐野くんに関わるにつれ、とても明るく前向きで優しい彼を知るにつれて、嫉妬よりももっと彼のことを知りたい気持ちの方が強くなった。もっと佐野くんのことが知りたい、もっと話したい。
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