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「信っじらんねぇ……」
早坂が眉をひそめながら言った。
「俺があんなにゴムやったのに、それも意味ない程ヤッたのかよ?」
「避妊しても出来る時は出来るし仕方ないじゃない?」
…そう、つい先日リカの妊娠が発覚した。
念の為言うと……週数から逆算して僕の子に間違いはない。
「別にそれはどうでもいい。でもなんで、お前らの式のが俺より先なんだよ!?俺らは早くて半年先って言われたんだぜ?」
「式場によるんじゃない?僕は知り合いのとこに頼んだし…」
「なんっか納得いかねぇ……」
幸一郎は……前から決まってたと本人は言ってるけど……三週間の海外出張に行ってる最中。
それが本当か、やっぱり暫く時間が必要なのか定かではないけど……
「絶対に二人の式までには帰るよ」
と電話で約束してくれた……。
ちなみに誰から漏れたのか、僕等の事情はいつの間にか社内でも誰もが知る所になっていた。
そして今では、幸一郎が買った指輪を次に誰が勝ち取るかちょっとした争奪戦の様な状態。
……海外出張の理由は、その所為もあるのか?
まぁとにかく……幸せになってくれるといいな。
「さ、仕事しよ」
少し伸びをしながら気合を入れるリカに、肩を抱きながら耳元で囁く。
「無理はしちゃ駄目だよ」
「ふふ。分かってる」
「…お前ら、家でやれ」
早坂が溜め息をつきながら睨み付けてくる。
構わずに僕の頬にキスするリカに、更に大きい溜め息。
「…異動願い出すかな」
「何言ってんの、部長」
「そうだよ、早坂部長」
……僕は今でも、強くない。
優しくもないかもしれない。
あの頃描いていた人間には、到底なっているとは思えない。
でも今は、目の前の大切な人達を守れたらそれでいいと思う。
そしてもう……何があってもその手を離さない様に……。
ただそれだけを願って、僕は生きる。
・:*+.End.:+
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