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零 『本物?』
「お疲れさんだったな」
「あぁ」
「塀の中の暮らしはどうだった?」
「二度とごめんだな。女が一人も居ねぇんだ…」
「確かにそいつは地獄だ」
「外が良いよ。外は自由だ。外は平和だ」
「──それが、そうでもないんだ」
「なにかあったのか?」
「んん。こっちも最近、物騒でな」
「縄張り戦争か?」
「いや、今もここは俺たちの島だ。ただ、その島が荒らされてるんだよ、よそ者にな」
「よそ者?」
「チームの仲間も何人か狩られた。最初の被害者はまだ真冬だったかな、それから毎週のように誰かが襲われてるんだ…」
「縄張り目当てじゃないって、じゃあ目的はなんだよ?」
「分からん。今のところ分かっているのは一つだけだ。──奴ら本物だぞ」
「本物?」
「命取られてんだ。狩られた奴ら、全員…」
「何者なんだよ、そいつら?」
「さあな。何でも、全身黒づくめの四人組って噂だ」
悪ぶってはいるが、まだ少年の顔をした二人連れの会話である。
栃木県宇都宮市。
春先とは言え、朝晩はまだまだ冷え込む季節。夜も深まった公園には、この不良少年たちの他に人の気配はなかった。
三人目の男の声が聞こえるまでは──。
「おい、お前たち」
続いて四人目の男の声。
「顔を貸してくれないか」
声はもう二人分続いたが、これは女のものだった。
「ちょっと練習に付き合って欲しいの」
「手間はとらせないから、ねっ!」
大小、そして太いのや細いのが揃った四人組は、正しく頭の天辺から足の先までが黒づくめ。頭部には黒い兜と黒い仮面を被り、その顔を完全に隠している。
だから、振り返ってその姿を見た不良少年たちは、一瞬ギョッとしたが、すぐに威勢の良い声を荒げた。
「てめぇらだな、俺たちの庭を荒らしてやがるのは!」
「調度良い、今から庭掃除だ!」
不良少年たちが一斉に殴りかかって、格闘劇は始まった。──はずだったが、黒づくめの四人組はサッと四方に飛び散って、難無くこれをかわした。
「随分と元気がいいじゃないの」
「練習相手には打って付けね」
逃げた相手を、不良少年たちは拳を振り回して追い掛ける。が、何度殴っても、何度蹴っ飛ばしても、これがまるで当たらない。
腕には覚えのある不良少年たちだが、その攻撃を花びらが舞うような動きで、ことごとくかわす四人の身のこなしは、単なるストリートファイトのレベルではなかった。
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