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シバと呼ばれた小さな男の影は、伏せていた顔をパッと上げ、心外と言った目つきを仮面から覗かせたが、デロは構わず続ける。
「お前のその、短気で強情な性格が暴走しはしないか…」
言われてシバは、ハッとしたように、また顔を伏せた。
「私の魂は、もはや神に捧げております」
「うむ。ならば能力的には、お前が最も優秀だと、このデロは見ておる。皆を頼んだぞ」
「はい!」
大きく一つ息を吐いて、デロは四人の影たちに言った。
「心して聞くが良い──。いよいよだ。いよいよ我々の計画を実行する時が来た!」
顔は伏せたままだったが、この時、四つの影たちの眼が、仮面の中で静かに輝いたように見えた。
「三日ののち、神の描かれたシナリオが幕を開ける」
その神の後光を背負っているかのように、デロは重厚な振る舞いで言った。
「まずは手始めに、この新宿の街に…、歌舞伎町に四本の火柱を立てるのだ。そうして、その次は…」
自らの高揚を抑えるように、デロは月を見上げる。それからまた視線を戻して、凛とした声を出した。
「いや、まずは新宿に集中せねばならん。皆も肝に銘じておけ!」
「はっ!」
コンクリートに兜を擦り付けんばかりに、四つの影は声を揃えた。
尚もデロは、神の声を代弁すべく、しゃがれた声を張る。
「これは我らが神のお導き。よいか汝ら、迷う事なかれ。作戦名は──」
冷たい冬の風に染み込むように、デロの号令は下った。
「新宿黒兜!」
○
それから十数分が過ぎた頃だ。
雑居ビルの屋上に、黒装束の五つの影はもうない。
彼らは新宿の闇にまみれ、ビルからビルへ、時に猿みたいに隣の建物へ飛び移ったり、時にヤモリみたいに壁に這いつくばりながら、それぞれ五つの方向へと消えた。身体の大小に関わらず、五人が五人、目にも留まらぬ素早さで、恐らくはこの十数分の間に、完全に新宿の外にまで出たものと思われる。
そして、今──。
「ったくもう…」
怒ってはいるものの、透き通るように美しい少女の声は言った。
「やっぱり、ここに居たのね!」
黒装束にあらず。美しい声の持ち主は、白く澄んだ肌が看板広告の電飾に照らされて、その容姿もまた、目を見張る美少女だ。
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