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「…なら、安心しました。ノヴァルナ様、聞いていたよりずっと、優しいお方たったんですね」
そう言って胸を撫で下ろす感のあるネイミアに、ノアの事から我に返ったノヴァルナは、執務机の上に展開した書類ホログラムの、フォルダを開いて問い質す。
「ん?…なんの話だ?」
ノアの事を頭に思い描いていたため、いつになく穏やかな口調のノヴァルナに、ネイミアもついつられて、余計な事を口にしてしまった。惑星ガヌーバの温泉郷で初めてノヴァルナ達に逢った際、本人である事を知らないまま、キノッサにウォーダ家の殿様がどんな人か尋ねた時の話だ。
「いえ、キーツが前にノヴァルナ様の事を、お調子者とか面倒臭いとか、意地悪な人だとか、いろいろ―――」
そこまで言って失言に気付くネイミアだが、後の祭りである。
「あ!」と口元を手の先で隠すネイミア。
「あっ…」と顔を引き攣らせるキノッサ。
「あぁ!?」と目尻を吊り上げるノヴァルナ。
「てめ、俺のいねーところで、いい度胸じゃねーか。サル…」
攻撃的な薄ら笑いを浮かべ、ノヴァルナはゆっくりと椅子から立ち上がった。それに合わせ、キノッサも後ずさり気味にゆっくり席を立ちかける。その様子はまるで獰猛な動物に遭遇した時の動きだ。
「ま、まぁ…まずは落ち着きましょうよ、ノヴァルナ達」
「落ち着けだぁ?…」
「そうッスよ。物事にはなんでも理由があるッス。それを今、事細かく…丁寧に…着実に…順を追って…理論的に説明させて頂くッスから…」
右手を突き出して言葉を並べながら、キノッサはこの状況をどう切り抜けるか、必死に頭を回転させていた。すると渡りに船、机のインターコムが軽やかな呼び出し音を鳴らす。タタッ!…と駆け寄って応答したのはネイミアだ。そして用件を聞くと、キノッサを捕まえて、強めのヘッドロックに入っていたノヴァルナに対し大きな声で告げる。
「ノヴァルナ様。『クーギス党』のモルタナ様が、お見えになりました!」
それを聞いてノヴァルナは「チッ!…」と舌打ちし、「イテテテテテ…」と言いながら腕をタップして来るキノッサを、床に放り出してネイミアに命じた。
「おう。通せ」
着ている軍装の乱れを直しながら、ノヴァルナは自分の机の所へ戻った。それにタイミングを合わせたように執務室のドアがノックされ、馴染みのモルタナが二人の部下の男を引き連れて「邪魔するよ」と入って来る。現在の『クォルガルード』と『クーギス党』部隊は、惑星ザーランダのあるユジェンダルバ星系最外縁部に到達し、皇都惑星キヨウ方面への超空間転移航行を開始するところだ。
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