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それにノヴァルナが今一つ、ザーランダの住民達への不満を募らせなかったのには、やはりラフ・ザス達『ヴァンドルデン・フォース』の、戦国の世に対する想いが重くのしかかっていたからだ。
英雄譚ばかりが語られる今の戦国の世…銀河皇国の民は、自分達も戦火に巻かれる危険性の中に身を置きながらも、どこかで非現実なものとして、そんな英雄譚を娯楽の一部のように捉えている。
そしてそれは実際、星大名であるノヴァルナ自身も感じるところであった。名誉や誇り、権威や権力のために己が身を燃やす者が、如何に多い事か…
そんな自分達や銀河皇国そのものに、戦争の本質―――狂気と不条理を思い出させようとしたのが、『ヴァンドルデン・フォース』だったのではないか…とノヴァルナには思えるのだ。
無論、彼等がこれまで行って来た非道を、銀河皇国の新秩序のためだと認める事は出来ない。しかしラフ・ザスが自ら求めた狂気に触れた事で、ノヴァルナにはこれまでのもやもやとしたものが、形になろうとしているように思えた。
“ノアに会って、話がしてーな………”
ノヴァルナが早々にザーランダを離れた真意の一つがこれである。先行して皇都惑星キヨウへ向かった婚約者のノアと早く再会し、『ヴァンドルデン・フォース』と戦って感じたこの想いや、これからの事を思う存分話し合いたい…それがノヴァルナの今の偽らざる気持ちだった。
専用艦『クォルガルード』の執務室で椅子に座りながら、珍しく真剣な眼差しでノアの事を考えているノヴァルナに、紅茶と手作りのクッキーを持って来たネイミアが、恐る恐る尋ねる。
「あの…ノヴァルナ様。まだご機嫌斜めですか?」
惑星ザーランダでノヴァルナの家臣となったネイミアは、住民達の冷淡な反応にひどく腹を立て、そのままノヴァルナの旅に同行したいと申し出たのだ。自分が苦労して星々を巡り、ようやく探し出した救国の英雄の対するぞんざいな扱いに、我慢がならなかったのである。
ただネイミアの今の物言いに、同じ執務室の一画で書類データの整理を手伝っていたキノッサは眉をひそめた。身も蓋もない彼女の言い方では、ノヴァルナの不興を買うように思ったからだ。ところがノヴァルナは怒りもせず「んー?…そんな事もねーぜぇ…」と、どこか惚けたような声で応じた。
その口調でキノッサは、自分の主君が婚約者の事を考えていて、頭が一杯だった事を見抜く。少々…いや、結構下衆な想像付きではあるが。
“なーんだ、ノア姫の柔肌待ちッスか…”
ところがその直後、うっかりネイミアが口を滑らせた事で、キノッサは一瞬で窮地に追いやられた。
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