第15話:風雲児VS星帥皇

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   『ヴァンドルデン・フォース』との戦いを終え、戦後処理を慌ただしく済ましてザーランダを離れたノヴァルナは、ここまでモルタナと直接会って、じっくりと話をする時間が取れなかったのだ。  モルタナはわがもの顔で、二人の部下と共に、部屋の中央のソファーに腰を下ろした。海賊らしく振舞っているという事なのだろう。ただ今日はいつもの露出度の高い着衣にの上に、目立たないオリーブ色のローブを着ていた。  こっち来いと手招きするモルタナに、ノヴァルナは、やれやれ…といった表情をして片手で頭を掻きながら歩み寄ると、モルタナ達の反対側に座る。同じ部屋の中にはランとササーラもいるが、二人にモルタナの無作法を咎める様子は無い。 「ったく、ねーさんには敵わねーな…」  いつもと変わらない態度は、モルタナの方が一枚上手なのかもしれない。家族意識の強い『クーギス党』は、今回の戦いで114名の戦死者を出しており、その悲しみようがどのようなものかは、以前の共闘でノヴァルナも良く知っている。それを早々に、いつもの陽気さを取り戻して…いや、そのように装っている気丈さは、内心では弱い部分もあるモルタナも、この二年で成長した証だった。 「で? 話の前にコーヒーと紅茶。どっちがいい?」  ノヴァルナがそう尋ねると、注文取りのウェイトレス宜しく、ネイミアがすかさず傍らにやって来る。ところがモルタナはノヴァルナの言葉に、お株を奪うような不敵な笑みをニヤリと浮かべ、「ジャジャーーン!!」と大きな声を上げた。そしてローブの中から取り出した両腕には、手指の間に挟んだウイスキーのボトルが、四本も光っている。 「げげ!」  真顔で顔を引き攣らせ、ソファーの背もたれに背中を押し付けるノヴァルナ。アルコールがからきし駄目なこの若者からすれば、真顔にならざるを得ない。モルタナが普段身に着けていないようなローブを着ていたのは、このボトルを隠すためであったのだ。しかも二人の部下もそれぞれ四本のウイスキーを隠しており、全部で十二本ものボトルが登場した。 「あんた。グラスと氷、水割りのセット、用意しな!」  完全にこの場を仕切る空気を身に纏っているモルタナに、ピシャリと言われて、ネイミアは思わず「はいっ!」と背筋を伸ばして返答し、小走りに駆けて行く。 「いやいやいやいや。ちょ待てや、ねーさん!…俺ぁ―――」  翻意を促そうとするノヴァルナだが、モルタナは不意に真剣な眼差しとなって、ノヴァルナにきっぱりと言い放つ。 「ウチの死んだ連中の弔い酒だよ。付き合えない、なんて言ったら…あんたを一生恨むからね!」 「!………」  そう言われてしまっては、拒否できないノヴァルナだった。そしてモルタナはさらに続ける。 「ヴァンドルデンの連中と戦う前に、あたいの部下と飲んでた時さ…みんなが言ったんだ。“お嬢。キオ・スーの若殿様をもっと飲めるように鍛えて、俺らと飲み明かせるぐらいにしてやってくだせぇ”ってね―――」  それを聞いてノヴァルナが心を動かさないはずはない。おそらくその発言をした者は、すでにこの世にいないのだろう…こちらも真顔になったノヴァルナは、「わかったぜ…」と応じた。  
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