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同じ頃、皇都惑星中心部ゴーショ地区・ファルイテ緑地域―――
惑星のほぼ全土が都市化されたキヨウだが、それでも広大な緑地が幾つも存在していた。それは人間が生きていくうえで、今もなお自然が必要である事を、如実に示しているに他ならない。
このファルイテ緑地もそんな場所の一つであり、一辺が10キロメートルの正確な六角形に区割り整備された人工的なものとは言え、その内側には惑星キヨウの動植物が集められて、一部数箇所が公園として市民にも開放されていた。
そんな公園の一つに向かって反重力タクシーが走っている。タクシーの後部座席に座るのは、ノヴァルナの妹フェアン・イチ=ウォーダ。そしてその両側を、女性『ホロウシュ』のジュゼ=ナ・カーガとキュエル=ヒーラーに挟まれていた。
今日のフェアンはいつも以上にお洒落だ。
普段は赤白ピンクの庶民的な服を着ているイメージのフェアンだが、今日は濃淡二色に染め分けたすみれ色のワンピースに、白のチョーカー。亜麻色のセミロングの髪を、ポニーテールにしてローズピンクのリボンで纏め、ピアスとネックレスは金ではなく銀をチョイス。その代わり、ローヒールの色と合わせたオフホワイトの小振りなバッグには、ウォーダ家の家紋の『流星揚羽蝶』と結び付けた、揚羽蝶の金飾りが光っていた。
さすがに星大名家の姫らしい姿と言えるが、ただタクシー内での態度はいつものフェアン…いや、いつになく緊張気味のフェアンである。
「ね、ね、ね、やっぱりこのカッコ、変じゃない? 大丈夫かな?」
自分の衣服を見回して、両側に座るジュゼとキュエルに尋ねるフェアン。それに対し二人は、少々呆れ気味の苦笑いを浮かべて応じる。
「大丈夫ですよ、イチ姫様」
「そう何度もお訊きにならなくても、かわいいですって」
キュエルの言葉から、フェアンがここに来るまで何度も、自分の今日の服装の是非を尋ねているのが知れた。しかしどうしてもフェアンは気になるらしい。
「でもでもでもね…」
まだ言おうとするフェアンに可笑しくなったジュゼは、「あははっ!」と笑い声をあげて言い放った。
「もう! 私達まで、緊張するじゃありませんか!?」
「だってぇ…」
「大丈夫ですって。アーザイル様も絶対、イチコロですよ!」
「!………」
キュエルに些かはしたない物言いを交えて、これから自分が会おうとしている若者の名を出され、フェアンは頬を染めて下を向く。その初々しさに、デートの護衛役として同行しているジュゼとキュエルは、慈しみを覚えて眼を細めた。
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