第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ

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   ソニアの言葉も尤もだった。幾らオルグターツの性癖が異常であっても、ノアに対してここまで偏執的となると、何か怨恨があるに違いない。するとビーダがその理由を口にする。この際、ノアにも聞かせておこうというのだろう。 「それは姫様が、オルグターツ様を嫌われているからですわ」 「そ…それだけ?」  驚くほど簡単な理由に、ソニアは唖然とした。しかしビーダには“メンタルドミネーション”を使ったり、嘘をついている気配はない。 「あら。それだけで充分でしょう? こんなにお綺麗なノア姫様が自分を嫌っている…それはオルグターツ様にとって昔からの、この上ない“密かな悦び”であり、“許せない憎しみ”であり続けましたの。そしてその想いを果たすには、目の上の瘤であらせられたドゥ・ザン様が亡くなられた今、オルグターツ様はご自分のお望みを、もはや我慢する必要も無くなられた…そういう事ですわ」 「そんな―――」 「もういいわ。黙らせて!」  さらに何か言おうとするソニアに対し、ビーダは彼女の肩を掴むルギャレへ命じた。ナルナベラ星人の傭兵は、ソニアの頬に容赦なく平手打ちを喰らわせる。悲鳴を上げて倒れ込むソニア。その声にノアは体を震わせて怯えた。  そんなノアをビーダは、持ち前の話術でさらに追い詰めていく。 「我が主君、オルグターツ様がペットとしてご所望なのは、凛として気丈なノア姫様ではなく、穢されきって落ちぶれた惨めな姿のノア姫様ですの。ほかに生きる道が無く、ご自分に縋ってお情けを請う哀れなノア姫様を、オルグターツ様はお求めなのですよ。さぁ早くご友人達を守るため、そうなる覚悟を見せて下さいな」  もはやビーダを見上げ、ただ首を左右に振る事しか出来ないノア。口調を柔らかくしたビーダが、哀れなほどか細くなったノアの心の支えを、染み入るような声でへし折りにかかる。 「ああ…ご心配なく。公開調教の時にはノア姫様にも、おクスリを打って差し上げますから、全てを忘れてお好きなだけ、淫らにヒイヒイ鳴いてくださいまし。調教のご様子は“そのあと”と一緒に映像を録画して、オルグターツ様にお渡しする事になっておりますので、その方がお喜び頂けますわ」  そこにさらに追い討ちをかけるラクシャス。こちらもいよいよ、秘めていた凶暴な本性をあらわにし始めた。 「言っとくけど、オルグターツ様のお望みに叶うようになるまで、ずっと調教は続くし、バサラナルムに戻ったら、こんなもんじゃ済まないからね! 諦めてさっさと、そこの首輪を付けな!! あんたにゃもう、他の選択肢は無いんだよ!!」  執拗に続けられる言葉の暴虐に打ちひしがれたノアの心は、次第に死への逃避を望み始める…尊厳のための死ではなく、現実逃避の死を……… 死にたい―――  そんなノアの眼前で、死ぬ事さえ許さぬかのように、床の上の赤い首輪に取り付けられた銀の金具が、照明の光を冷たく反射する。ビーダは眼を細め、わざとノアにも聞こえる声で、ラクシャスに囁きかけた。 「そうだラクシャス。もし大うつけちゃんが生きてたら、お世話になったお礼に、キオ・スー城にも映像を送って差し上げましょうよ。姫様が元気に過ごされてる姿をお見せして、安心して頂かないと」  蔑みの眼で見下ろすビーダとラクシャスの視線を浴び、絶望に包まれた瞳に涙が滲むノア。剥き出しになった本心が哀しく訴える。 “いや…いや!…いや!!…全部いや!!!! 助けて―――”  我慢も限界に達するラクシャス。 「いつまで待たせるんだ!! それなら先に傭兵どもに―――」 その時であった―――  キャビンの扉が大きな音を上げて、外から蹴破られる。そして中へ飛び込んで来たのは、簡易宇宙服を着た若者。 「ノア!!!!」  愛するひとの名を叫ぶその若者は、紛れもなくノヴァルナだった! 【第18話につづく】  
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