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第18話:未来への帰還
四年前。ミノネリラ宙域
首都惑星バサラナルム、イナヴァーザン城―――
留学先のキヨウ皇国大学への出発を明日に控えた、十八歳のノア・ケイティ=サイドゥは、侍女のメイアとマイアを伴って、イナヴァーザン城の中庭に設けられた池のほとりに佇んでいた。
バサラナルム特産の“サンショクスイレン”が、水面に幾つも浮かべた円形の水上葉の間から、桃色・黄色・薄水色の三色に可憐な花を広げている。キヨウに行ってしまうと、この花ともしばらくお別れね…と、腰を下ろして感慨にふけるノア。
するとその時、背後から語尾に独特な癖のある声が掛かる。
「よォお、ノアぁ」
立ち上がって振り返るノアの視線の先に居たのは、父親ドゥ・ザン=サイドゥの孫…ノアにとっては腹違いで年上の甥という、些か複雑な立場のオルグターツ=サイドゥであった。
怠惰…傲慢…陰湿…放蕩…良い話を一つも聞く事がないオルグターツを、生理的に受け付けられないノアの眉間に、不快げな皺が刻まれる。ノアの心情を知るメイアとマイアが、すぐさまノアの前に進み出て、オルグターツを近寄らせない。
「なにか用ですか?」
冷たい口調のノアだが、オルグターツに気後れは無かった。
「おまえを眺めてたのさァ。今日でしばらくゥ、見納めだからなァ」
「………」
愛想笑いもする気になれず、無言で無表情のままのノア。
「へへへ…相変わらずの美人だなァ…どうだァ? そこのテラスにィ、ワインでも運ばせるからァ、一緒にィ―――」
「結構です。私は未成年ですので」
「じゃあァ―――」
「申し訳ありませんが、明日の準備がありますので、これで」
つっけんどんな態度で、ノアは去っていった。メイアとマイアはその場に残り、オルグターツの前に立ち塞がる。カレンガミノ姉妹に両手を挙げ、オルグターツも諦めた素振りを見せてその場を離れた。
そしてオルグターツは途中で後ろを振り返る。その視線の先にいるのは、カレンガミノ姉妹が小走りで追いついていく、長い黒髪をなびかせながら颯爽と歩くノアの後ろ姿。口元を歪めたオルグターツの双眸に、被虐の悦びと加虐の欲求が入り混じった異様な光が宿る。
“ノア…ドゥ・ザンのジジイさえいなけりゃァ、力ずくでもォ、俺のモノにしてやるんだがァ…いつか見てろよォ………”
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