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「ノア!!!!」
コンテナ貨物船『ラッグランド58』のキャビンの扉を蹴破り、中へ飛び込んで来たノヴァルナは叫んだ。ランとササーラがそれに続く。
「………」
ノヴァルナの視線の先には、身をすくめたままのノアが、呆然とこちらを見ていた。そしてノアの目の前の床に置かれてあった首輪を見た瞬間、ノヴァルナの怒りは沸点を遥かに超える。ノアと同様、突然出現したノヴァルナに、何が起きたか理解できず、動きが固まったままのビーダ達に向け、鬼の形相となったノヴァルナが声を張り上げながら、猛然とダッシュする。
「てッめぇらァアアアアア!!!!」
周囲の傭兵達が銃を向けるより早く間合いを詰めたノヴァルナは、一番目立つ姿のビーダにそれはそれは見事な、IGPF(銀河プロレス連盟)の関係者が見れば、それだけでスカウトしたくなるような、古今東西類を見ないほどに完璧なドロップキックを放った。
「俺の女に、なにしてやがるゥウウウッ!!!!」
その一発はビーダの胸元を直撃。「ギャン!!!!」と悲鳴を上げたこの男(?)は、ものすごい勢いでぶっ飛ばされ、ソファーの後ろにいたナルナベラ星人の傭兵達数人を、巻き添えにしながら床を転がっていく。
敵で一番素早く反応したのは意外にもラクシャスだ。ただ彼女(?)には戦闘能力は無いらしく、開いたままであった別の扉から、一目散に逃げ出しただけである。そしてその時にはもうノヴァルナは、ソニアにライフルを突き付けていたルギャレの顔面を、全力で殴りつけていた。前歯と鼻骨をへし折られたルギャレは転倒し、叫び声をあげて顔面を手で覆いながら床を転げ回る。だが最も優先しなければならない事を、ノヴァルナは忘れるはずがない。
「ササーラ、暴れてよし!」
叩き付けるような声で、あとの格闘をササーラに任せたノヴァルナは、すぐさまノアのもとへ駆け寄った。ササーラが円形ソファーを怪力で持ち上げ、「ぬおおおおお!」と咆えながら両手で振り回し始める光景を背後に、ノヴァルナはノアの両肩を支えて呼び掛ける。
「ノア、大丈夫か!?」
「ノヴァ…ルナ?……」
まだ信じられないという視線を向けるノアの瞳に、涙が滲んでいるのを見て、ノヴァルナはハッ!…と息を呑んだ。声は弱々しく、体は震えが止まらない。かつてムツルー宙域でアッシナ家に捕らえられていたのを救出した時、それでも気丈な態度で応じていたノアとは、まるで別人のような怯え方だった。
「済まねぇノア! 俺が悪かった!!」
キヨウに来てから、おかしな距離感を作ってしまった事が、こんなにノアを怯えさせる結果を招いてしまった!…そんな自責の念にとらわれ、ノヴァルナはノアに詫びて両腕の中に強く抱き寄せる。
「来て…くれたの?」
「当たり前だ!」
ノヴァルナの強い言葉に、ようやく自分を取り戻し始めたノアは、自分もゆっくりとノヴァルナの背中に腕を回した。愛するひとが本当にここにいるのを、確かめるように………
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