第18話:未来への帰還

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   時間は巻き戻され、アーザイル家の『サレドーラ』号の中で、ナギ・マーサス=アーザイルが、自分達の乗るこの船が有する特殊機能の使用を命じた場面。 「ナギ様! あれを他家に知られるのは―――」  側近のトゥケーズ=エィン・ドゥが、目を見開いてナギに翻意を促すが、ナギは「命令だ」と、きっぱり言い切って却下する。 「アーザイル殿?」  訝しげな眼を向けるノヴァルナに、ナギは愛想良く「僕の事はナギとお呼びください」と言い、続けて『サレドーラ』の秘められた能力を明かした。 「この船が自慢なのは速度だけではありません。潜宙艦…高々度ステルス艦の機能を持っているのです」 「!?」驚くノヴァルナ。  高々度ステルス艦とは、“潜宙艦”の別名の如く、各種センサーによる探知が利かない高度なステルス性を利用して、宇宙に潜む艦艇の総称である。この機能を使用する場合は、低速かつ攻撃を行う事が出来ないものの、相手は専用のスキャナーにより、空間を細かく刻むように走査する以外に発見は不可能であった。  なぜそんな機能をクルーザーに?…と問われるのを見越し、ナギはそれも踏まえて自分の考えたノア姫救出作戦を開陳する。 「我々アーザイル家がキヨウや中立宙域方面へ出るには、超空間ゲートを使うにしても、敵対するロッガ家の領域を通り抜ける必要が生じます。そのためこの船に、潜宙艦と同等の機能を持たせたんですよ。ロッガの艦に発見されそうになったら、こっそり隠れるというわけです。それでこの船の速さと潜宙能力を使って、ノア姫様を捕らえている貨物船をまず追い越し、コース上に潜んで、ステルス状態のまま接近し接舷。内部に侵入してノア姫様を奪還ののち即時離脱。という手はいかがですか? 向こうのコースは、航路管理局から情報をもらっていますし」 「ナギ殿…」  ノヴァルナはナギに感謝の眼を向けると同時に、その武将としての資質に舌を巻いた。物腰も柔らかく、育ちのいい温厚そうな印象だが、勇気と決断力に溢れた強い意志を秘めている。 「わかった。それに賭けよう」  他に手があるとも考えられず、ノヴァルナはナギの作戦を承諾した。自分の考えをノヴァルナに認めてもらえたのが嬉しいのか、ナギは屈託のない笑顔で「はい」と頷く。すると今しがたナギに翻意を促そうとしていた、側近のエィン・ドゥが航法ホログラムを戦術用に切り替え、ノアを捕らえた船のコースを表示。注意点を指摘し始める。 「今から最大速で追うとしたら、向こうは第一税関ステーションで時間を喰うはずですから、その間に追い抜く事が可能でしょう。ただステーションを離れると、管理局に申告した通りのコースで航行するかは、微妙ではないでしょうか?…向こうは我等が追跡しているのに気付いてはいないと思いますが、万が一の場合に備える事も考えるべきかと」  この男も面白い…とノヴァルナはエィン・ドゥに視線を遣る。主君がこの船のステルス機能を露見させる事を批判はしたが、そうと決まった以上は割り切って裏表なく協力的になっている。よほどこのナギを主君として惚れ込んでいるのだろう。  
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