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敵の貨物船のコースを確認するノヴァルナ。確かに第一税関ステーションから、ヤヴァルト星系最外縁部に並ぶ超空間ゲートまでは、低速の貨物船では距離的に二日ほどかかると思われるが、それだけに航路を勝手に変更される恐れもあった。
それらを見越して、ノヴァルナは待ち伏せ地点を選定する。「ここだ」と告げ、ホログラムに表示された貨物船の、予定航路の一か所を指さした。そしてその理由を続ける。
「この第四惑星…サハンダか? コイツの公転軌道の外側にある小惑星帯。少なくともこれを抜けるまでは、予定通りのコースを通るはずだからな」
「どういう事ですか?」と尋ねるラン。
「下手に勝手なコースを取って、小惑星帯の中を抜けようとすれば、想定外の軌道を飛んで来る小惑星が多くなって、危険だからさ。そこで連中が任意のコースを取れるようになる前の、小惑星帯の出口ギリギリで待ち伏せる」
それを聞いたササーラが「なるほど」と応じると、ナギも頷いて「それでいきましょう」と同意し、エィン・ドゥを振り向いて命じる。
「すぐに針路を算出し、加速を開始して」
エィン・ドゥは「かしこまりました」と言葉を返し、傍らにいた『サレドーラ』の船長と共に、コース設定のため航宙士の席へ向かう。すぐにノアを捕らえたイースキー家の貨物船を、追い抜くための最短コースを導き出した『サレドーラ』は、一気に加速を開始した。
そして約二時間後、待ち伏せポイントに到着した『サレドーラ』は、シルバーとライトグリーンで塗装されていた外殻を、黒一色に変化させている。“高々度ステルスモード”に切り替えると、船の外殻がセンサー波を吸収する特殊素材で、覆われるからである。
船は小惑星帯の出口で、完全停止状態で浮かんでいた。正確には登録ナンバーが『RB6890433W』のやや大きめの小惑星の引力と、バランスをとって浮遊している。
センサーはこちらからは作動させておらず、相手からのセンサー波を感知して位置を探る、逆探知の“パッシブモード”にしていた。敵が使用しているのは、一般の民間貨物船であり、戦闘用の高精度センサーは装備しているとは思えないが、念のためである。
『サレドーラ』の静まり返ったブリッジ内に、電探室からの報告が届く。それを聞いた電探士官が船長とナギたちに告げた。
「目標船のものと思しき、センサー波を感知」
「えらく早いな」
訝しげな眼で言ったのはエィン・ドゥだ。確かに『サレドーラ』がこのポイントに到着し、“高々度ステルスモード”に切り替えてから、まだ十五分も経ってはいない。
「目標に間違いはない?」
ナギが温和な声で問い質すと、船長がそれに応じた。
「管理局の航宙予定表では、目標の船以外にここを通る予定はありません。おそらく間違いはないと思われます」
それを聞いたナギは、ノヴァルナに振り向いて無言で様子を窺う。そしてノヴァルナも無言で小さく頷くと、ナギは船長に命じた。
「よし。じゃあ船長。微速前進であの船との、ランデブーコースを取って」
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