第18話:未来への帰還

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   予想より早く出現した。イースキー家のコンテナ貨物船『ラッグランド58』。その理由は前述したように、第一税関ステーションF号の職員の悪評通りの、腐敗ぶりによるものである。ビーダ達の多額の“袖の下”を渡された職員達は、本当に形だけの検査で通関を許可したのだ。そのため危うく『サレドーラ』は、『ラッグランド58』を、取り逃すところだった。  しかし発見に成功してしまえば、『サレドーラ』に抜かりはない。引力バランスを取っていた小惑星『RB6890433W』を利用し、イレギュラー軌道の小惑星として『ラッグランド58』の航路上へ進出。至近を通過する際に“高々度ステルスモード”のまま接近して右舷下に接舷。ビーダ達が“小惑星に船体が擦れた”と思った船の僅かな揺れは、この接舷の振動を勘違いしたのだ。  『ラッグランド58』の外殻に穴を開ける事無く、宇宙服を着用して整備用ハッチから侵入したノヴァルナ、ランとササーラ。そしてアーザイル家の保安科員六名は、イースキー家の操船スタッフを捕らえてノア姫の居場所を聞き出し、キャビンに突入したのである。 「ぬぅおおおおおおおお!!!!」  獣ような咆哮を上げたササーラは、六人は腰掛けられるであろう、円形ソファーを両手で掴んで大きく振り回す。ササーラに掴み掛ろうとする、ナルナベラ星人の傭兵達が、悉く弾き飛ばされる。ガロム星人のササーラ同様、二メートルほどの巨躯で筋骨逞しいナルナベラ星人だが、地力はササーラの方が桁違いに強いようだ。  それで一方つい今しがたまで、ノアを散々いたぶり抜いていたビーダとラクシャスはと言うと、ノヴァルナの完璧なドロップキックを喰らったビーダは、ノックアウトされたまま床から起き上がられずにおり、ラクシャスは驚くべき素早さでキャビンを逃げ出している。  また『アクレイド傭兵団』のバードルドは、ランの背負い投げで脳天を壁に打ち据えられて、床の上で人事不省に陥っていた。  ただノヴァルナの目的は、あくまでもノアを自分の手に取り戻す事であり、ここで敵を一掃する事ではない。ましてや、これまでにない怯え方をしているノアを、一刻も早く連れ出すべきだと判断したノヴァルナは、強く命じた。 「ササーラ、ラン。こっからズラかるぞ!」  そしてノアに「ノア…歩けるか?」と優しく問い掛ける。無言で頷いて立ち上がるノアの向こうでは、ランがソニアを立ち上がらせ、さらに麻薬の“ボヌーク”を打たれて放心状態の続く、メイアを抱え起こそうとしていた。 「ササーラ、急げ!」  ササーラの大暴れでナルナベラ星人の傭兵で、立っていられたのはすでに五人。ササーラはその五人めがけてソファーを投げつけた。三人がそれに激突して転倒すると、残る二人に間合いを詰め、両腕から繰り出したラリアットでぶっ飛ばす。全員が立てない状態になったのを確かめたノヴァルナ達は、来た時と同じ素早さで、キャビンから姿を消した。  
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