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それから数週間後、私は読書会の開催日のお伺いをたてた。感想を伝える日だ。
スケジュールはうまく組め、問題なく私たちはいつものカフェで読書会を開いた。
しかし、今日はいつも通りに事が進まない。橋岡くんはずっとそわそわして、私からの言葉を待っていた。
それが面白くてあえて切り出さずにミックスベジタブルジュースを飲む。
「ありちゃん、なんか言ってよ」
泣きだしそうな顔で、橋岡くんはストローを口に入れたままこちらを睨む。まるで迫力がないけれど、私はニヤつく顔を必死に抑えた。
「見たんでしょ? どうなの?」
「見ました」
爽やかな野菜とフルーツの風味が口の中を抜けていく。しかし、橋岡くんはまったく爽やかでない。
「それは、僕が正解って言ったら開けるもんじゃん」
不服そうだが、それがとても可愛らしい。エサを貰えなかった犬のようだ。
「じっくり、読みました。橋岡くんの小説」
小説、という言葉に、橋岡くんは顔を赤らめ俯いた。
そうそう、この表情が見たかった。
「ヒントは読書会と、橋岡くんが好きだけど嫌いな事。それは活字。だから、私は橋岡くんが何か書いてくれたのだと思って開封しました」
なんとなく、敬語になってしまう。私もいつもとは違う気持ちだ。
「幼馴染と一緒の時間を過ごしているうち、いつからか女性として見るようになった男の人の物語……という解釈でいい?」
9枚の紙に印刷された短編は、正直言って読めたものではなかった。誤字が多いし、まとまりのない文章だらけ。
けれど、橋岡くんの一生懸命さは伝わった。苦手な事に挑戦してくれた。
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