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私のあらすじ紹介に、橋岡くんは答えずガムシロップ入りで生クリームとチョコレートソースの乗ったカフェラテを飲むだけ。
私も無意識にジュースを口にする。
店内のジャズは曲間で、数秒の沈黙が流れる。
今日はいい天気だなぁと店の外を眺めた。
そろり、と橋岡くんは顔をあげる。私をじっと見つめて、また俯く。
私は箱を開けて、わざとらしく紙の音を立てながらめくる。
また橋岡くんは顔をあげる。
顔が赤い。耳まで赤い。
「ね、ありちゃん。感想は?」
「文章はとても読みにくい。句読点がやたら多い。話もキャラクターも個性が無い、って感じかな」
私の答えに、ぶんぶんと首を横に振った。
「そういう小説の作法の話をしているんじゃなくて!」
ここで、私はこらえ切れず噴き出した。
「ごめんごめん、橋岡くんが可愛いからいじめちゃった」
「いじめないでよ!」
泣き出しそうな顔なのに、怒っている。でも本気で怒っているんじゃなくて、ジタバタ暴れる子供みたいで愛らしい。
「橋岡くんが恥ずかしいのと同じように、私だって恥ずかしいの。だって、「これは私と橋岡くんの話で、橋岡くんの気持ちなの?」って聞いて、勘違いだったら嫌だもん」
言ってしまった。動き出してしまった。
そうわかって、私の鼓動も早くなる。こういう緊張を味わうのも初めて。
『勘違い。ありちゃん何言ってるの?』
橋岡くんのとぼけた返事が聞こえてきそうで、読書会までの一か月は長く感じられた。
今度は私が俯く番。さっき、いじめなきゃよかったな。
グラスについた水滴を指で拭う。
空席だった隣のテーブルに人が来る。
言葉を返して欲しいのに、その時間がなかなか訪れない。
まだカフェラテは残っているのに、じゅっと音をたてて橋岡くんが勢いよく吸い込んだ。
思わずびくっとして私は顔をあげた。
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