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カフェの席に着いた途端、唐突に、水色の箱を手渡された。
今日は誕生日でもない。お祝いするような事などあっただろうか、と首をかしげてしまう。
「どういうこと?」
目の前に座る幼馴染の橋岡くんは、生クリームとチョコレートソースがかかっているカフェラテにガムシロップを入れていた。見ているだけで歯が溶けそうな甘さの連鎖。
「ねぇ、これ何?」
「んっふふー」
オレンジ色のストローで、生クリームを溶かさないようにちょっとずつかき混ぜているだけで答えは言わない。
ジャズの流れる店内は、コーヒーや焼いたパンの匂いに満ちていた。利用客は大人ばかりで、高校生は私たちだけ。
休日ではあるが午後2時だからか、さほど混雑はしていない。
両隣に気を遣う客はいないので、私は箱を高く持ち上げたり振ったりして観察した。
箱は、淡い水色の無地の箱だった。だいたい20センチくらいの長方形。銀色のリボンがかけられていた。ちょっと歪んでいるから、橋岡くんが自分でかけたものだと予想する。
橋岡くんは私の行動を意に介さず、カフェラテと一緒に頼んだホットサンドをほおばり始めた。大葉とジュノベーゼのソースがしたたり、ブラウンのトレーの上に落ちた。
幼い性格のわりには、身長は180センチ近くあって体も筋肉質。早食い選手のような食べっぷりを見ながら私はミックスベジタブルジュースに口を付けた。
「もぐもぐしてないで、答えてよ」
私の言葉に、橋岡くんは口にしていたホットサンドを飲みこみ、また笑顔で答える。
「ありちゃんにプレゼントだよ!」
高校性のわりにはまだ少年らしさのある、高く透明感のある声だ。純粋さを形にしたらこの声になったような声なので、ボリュームもとても純粋。
私はシーと人差し指を少しあげた。唇につけて「しーっ!」ってやる女の子を羨ましく思うことはあれど、自分はそれをやっていい子ではない。
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