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その言葉に、私は目を合わせることができなかった。机に残された空っぽのグラスを見つめる。ただ、本が好きだって話なのに落ち着かなくなってしまう。
橋岡くんは、荷物をまとめ始めた。
「じゃー帰ろっか」
「えっ、箱のヒントは? もうひとつくらい教えて」
立ち上がりかけた橋岡くんに、慌てて尋ねる。橋岡くんは「あー」と、まるで忘れていたかのような口ぶりで答えた。
「僕の好きだけど嫌いな事に挑戦しましたー」
「それだけ?」
しましたーって可愛く言われても。可愛いけど。
橋岡くんの好きだけど嫌いな事。好きなものは活字や甘いもの。じゃあ、お菓子だろうか。でも、嫌いな事って。
「続きはまた、次回の読書会でね」
「一か月も待たされるの」
「中身がわかるまで、絶対に開けちゃダメだよ」
「鶴の恩返しかよ」
私の言葉に、橋岡くんは肩をすくめながら微笑んだ。
開催は、月に一回ほど。また本を持ち寄って、同じ時間を共有する。
橋岡くんは文字を打つのが好きではないらしく、スマホのメッセージにはあまり返事をくれない。活字中毒だから、どんなに長文でも絶対に目を通し、次回の読書会で返事をくれるけれど、予定をすり合わせる以外のやりとりはない。
だから、次にコミュニケーションを取れるのはまた一か月後だ。
彼は恋人ではないのだから、これくらいで充分。
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