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もういいや。開けちゃえ。
そしてスマホを取り出し、橋岡くんにメッセージを送った。
『中身がわかりましたので、開けます。』
事前に報告すれば開けていいだろう。一か月後なんて待てない。私は銀色のリボンを解いた。
少し自棄になっていたはずだけど、いざ開けるとなると途端にもったいなさが湧いてくる。
こうしてサプライズでプレゼントされたものを開封する女性は、小説の中で何度も読んだ。
どれだけ素敵な描写をされようが、どこか実感のわかない行動。
自分が文学のなかに生きている、そう感じられて、箱のふたを持つ手が震えた。
ああ、もっとこの大切な初めてを堪能すれば良かったなと、心のどこかで思うけれど、手はせっかちにもリボンを解いた。
紙の擦れる音がして、箱の中身が目に入る。千切りにされた白い紙の緩衝材に包まれていたのは、紙の束だった。
その途端、スマホの着信音が鳴る。橋岡くんからの電話だった。
現実に引き戻された私は、無機質な音を止めて耳にあてる。
『やめてぇ開けないで~!』
情けない声が届く。私は無視して、紙の束をめくった。
『ありちゃん聞いてる? ねぇってば!』
「聞いてるよ」
『開けちゃった?』
「開けた」
『当日に開けちゃうことないでしょ!』
あーあ、とがっかりした声も、私の耳にはあまり届かなかった。
『ねーありちゃん。聞いてる?』
「橋岡くん、感想は一か月後に言うね」
ええー待てないーと言う声を無視して、私は電話を切り文字を追う。仕返しだ。
答えは、一か月後じゃないと出せない。再び着信音が響くが、無視した。
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