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水に流す
蒸気に包まれたこのシャワールームに、今日もシャンプーと一緒に濁色の泡が流れていく。灰色の日もあれば紫色の日もある。少量の時もあれば大量の時もある。今日起こった嫌なことを全てなかったことにする。水に流す。
たとえば今朝、おでこに小さなニキビが出来ていたこと。たとえば今日、変な人に会ったこと。たとえば今日、体重が増えていたこと。私にはそれら全てが必要のない、無駄なもの。それらをまとめて洗い流す。私にとってそれはたやすいものだった。
目をつぶって、今日あったネガティブなことを思い出す。頭のてっぺんからシャワーを浴びて、そっと目を開けると、まるで皮をむいた卵のように清められた自分に生まれ変わる。ニキビは消え、変な人と会ったことも忘れ、体重も減っている。
濁色の泡が排水溝の中に流れていくのを見届けてシャワールームから出ると、そこにはいつもの完璧な私が鏡に映っている。顔も美人。スタイルも完璧。非の打ちどころなんてない。強いて言えば、完璧すぎるところかな。そのせいで裏ではクラスメイトから陰口を言われているのも知っている。でもそんなもの、シャワーを浴びればどうってことない。また可愛くて綺麗で完璧な私に戻るのだから。
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