水に流す

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 第一印象はまさにそれだった。ひょろっとした小枝みたいな体の線からは生命力が感じられない。白髪交じりの長い髪のせいで男か女か分からない。背は確かに高いが猫背のせいで首長竜みたい。なんだ、この人。私に憧れるのはいいけど、それなりの容姿でいてほしい。でも、私は完璧な人間。この人を無視せずに話だけでも聞いてあげたら、周りからはいい子だって思われるかもしれない。さらに私の評価が上がる。仕方がない、いい顔するか。 「なんですか?」 「あ、あの、パンフレットを配っておりましてね。精密機械とかって興味あったりしますぅ?」  中途半端に声変わりしているせいで、この人が男性だと分かった。いや、その前に女子高に精密機械の企業のパンフレットを持ってくるなんてありえない。あぁ、早くシャワーを浴びたい。 「えっ、なんですか、それ! すごぉい! これなんてすごく小さいんですね!」  広げられたパンフレットを見て、適当に感想を並べる。私のこの笑顔と美声を駆使すれば、こんな適当な感想にも花が咲くというものだ。現に、目の前の男も喜んでいるようだし。 「いやぁ、今朝早くから配ってるけど、こんなに興味を持ってくれるとは思わなかったよ」  別に興味があるわけではない。 「まさに日本の技術力のたまものですね! これからも頑張ってくださいね!」  首をかしげて必殺の笑顔。はぁ、朝から疲れる。  笑顔で手を振る細長い男。私に会えて、良かったね。  
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